都会の喧噪から離れ、北海道の雄大な自然の中で育児と仕事の両立を実現する。そんな「親子型ワーケーション」の可能性を探る研修会が、8月下旬に道南地域で開催されました。
参加したのは首都圏からの2家族。日本ワーケーション協会の古地優菜理事をアドバイザーに迎え、函館市・八雲町・厚沢部町を3泊4日で巡りました。単なる観光とリモートワークの組み合わせではなく、地域で暮らすように滞在し、子どもたちが新しい環境で学び、親も安心して働ける環境とは何かを実践を通じて確かめるワーケーションを体験いただきました。
1日目(8月26日)函館到着~「食と命」を学ぶ~
羽田から函館へ到着後、まず訪れたのは「福田海産」での魚捌き体験。函館の旬で新鮮な魚を自分たちの手で捌き、オリジナルの海鮮丼として盛り付けて味わいました。都市部では体験できない「命をいただく」という実感を通じて、子どもたちは「食と命」について学びました。

午後は市内の「はこだて未来館・キッズプラザ」へ。子どもたちが先端技術を体験しながら自由に遊び回れるキッズスペースに、Wi-Fiや電源完備のコワーキングスペースが併設された施設で、子どもは安全に遊び、親は集中して仕事ができる、親子ワーケーションならではの理想的な環境を体験しました。
2日目(8月27日)八雲町へ~星空と焚火に包まれる一日~
朝は函館朝市でイカ釣り体験。釣ったイカをその場で捌き、新鮮なうちに味わいました。その後、八雲町へ移動し、噴火湾を一望できるハーベスター八雲で名物のフライドチキンと石窯ピザの昼食をとってから、八雲町猪子農場へ向かい、酪農体験で子どもたちが牛と触れ合い、生産の現場を体験しました。

この日の宿泊先は「八雲ペコレラ学舎」。閉校した小学校をリノベーションした施設で、24時間使えるワークスペース、館内Wi-Fiを完備。夜は焚火を囲んで家族団欒、満点の星空観察を楽しみました。木工体験では、子どもたちが自分だけの作品を作り上げました。
3日目(8月28日)厚沢部町~保育園留学の視察~
この日のメインは、町が総力を挙げて誕生した「世界一のこども園」を目指す認定こども園「はぜる」の見学でした。全国初の「保育園留学」を実施する先進的な施設で、子ども主体で運営される保育園の理念に参加者たちは深く共感しました。
昼食は道の駅あっさぶで地元の食材を味わい、午後は函館市内のワークスペース「HAKOWORKS」を利用しました。

4日目(8月29日)意見交換会と帰路
最終日は「サンリフレ函館」で意見交換会を開催。3泊4日の研修を振り返りながら、北海道型ワーケーションの可能性について議論しました。

函館市、八雲町、厚沢部町の担当者から各自治体の取り組みを紹介いただいた後、一般社団法人日本ワーケーション協会の古地氏による講演を実施。親子ワーケーションの最新トレンドや成功のポイントについて貴重な知見を共有していただきました。
参加2家族からは率直な感想やプログラムの評価、改善点、地域への期待などを語っていただき、自治体関係者との間で有意義な意見交換を行いました。
充実した意見交換会の後は函館グルメを堪能し、帰路につきました。
【参加者の声】
- 「函館では魚捌き体験を通じて食と命の学びを得ました。八雲では星空観察や火起こし体験など、都市部では決してできない体験ができました。」
- 「旅行ではなく『暮らしに滞在する』体験になりました。」
- 「子どもが虫を探したり、何もないところで遊んでたことが意外な収穫でした。子どもが自分で見つけた遊びに没頭する姿を見て、こういう時間こそが本当に貴重だと気づきました。」
- 「親が安心して子どもを預けられる場所があることが、ワーケーション成功の鍵だと実感しました。」
【研修を通して気づいた課題】
・子どもと一緒に滞在できるワークスペースの必要性
今回の研修で最も強く実感されたのが「子どもと一緒に滞在できるワークスペース」の重要性でした。参加者からは「親の仕事の場所はどうにでもなる。でも、子どもと一緒にいられる空間が必要」という声が上がりました。親が仕事をしている場で、子どもが安全に遊べる空間。今回訪れた「はこだて未来館」や「八雲ペコレラ学舎」が好事例となりました。
・予想外への柔軟な対応とサポート体制
子どもは旅先で体調を崩したり、慣れない環境で不安になったりと、予想外のことが起こります。柔軟なプログラム変更、地域の医療機関との連携、緊急時の相談窓口など、子育て世代への深い理解と配慮が求められます。
・地域全体での連携と情報発信
親子ワーケーションは、保育施設、コワーキングスペース、体験プログラム提供事業者など、地域全体での連携が不可欠であり、自治体が調整役となって、地域で子育て世代を支える仕組みづくりを行うことが必要です。また、個人ワーケーションよりも参加者へ入念に詳細な事前情報を共有することが重要です。
【アドバイザーの意見】
アドバイザーの古地優菜氏は、親子ワーケーションへの関心が急速に高まっていると指摘します。「小学校入学前の子どもがいる家庭で、実際にワーケーションを体験した割合が、2022年から2024年の2年間で9%も増加しています」。
親子ワーケーションにはいくつかのスタイルがあります。たとえば、子どもが遊ぶスペースと親が仕事をするスペースが分かれている「分離型」、親子で一緒に体験する「一体型」、現地の学校で学ぶ「デュアルスクール型」など。古地氏は「どんなスタイルで過ごせるのかを、事前に家族へわかりやすく伝えることが大切」と強調します。
子どもが参加するワーケーションでは、予期せぬ事態への対応も重要なポイントです。急な体調不良で予定が変更になったり、外遊びで服が汚れて着替えが足りなくなったりと、大人だけの旅行では考えにくいハプニングが起こることも。「地域側は、こうした子連れならではの不安に寄り添う情報提供やサポート体制を整えることが求められます。近隣の医療機関の情報、急な洗濯に対応できるコインランドリーの場所、子ども用品を購入できる店舗など、細かな情報を事前に伝えておくだけでも、家族の安心感は大きく変わります」と古地氏は指摘します。
ニーズが高まる中で、地域が選ばれるためには他との差別化が重要になります。古地氏は、その鍵となる「高付加価値なコンテンツ」についてこう話します。「高付加価値なコンテンツは、必ずしも多額の予算が必要なわけではありません。大切なのは、地域の人たちが本気で地域の魅力を見つめ直すこと。地元の方との交流や、普段の暮らしを体験できることこそが、『また来たい』と思ってもらえる親子ワーケーションを生み出します」。
また、自治体の役割については次のように指摘します。「地域の事業者が集まって話し合い、一緒にアイデアを作り上げる場を用意することが重要です。そして、地域全体で目指すゴールを明確にすること。」。
【まとめ】
今回の研修を通じて見えてきたのは、親子ワーケーションとは単なる「旅行+仕事」ではなく、地域で暮らすように滞在し、子どもたちが新しい環境で学び、親も安心して働ける環境を実現することです。参加者の「親は働き、子は遊ぶ、が同時に成立する環境があった」という言葉が、親子ワーケーションの本質を示しています。