「地方移住」したいかも。
環境を変えてみた先にあった答え 中富良野町と行き来する二拠点の暮らし
移住を前提に模索していた「新しい環境」への欲求から始まった選択
エンジニア・コンサルタントとして長年東京を拠点に活動してきた小嶋美代子さんは、2017年に約30年勤めた会社を退職しました。仕事に一区切りをつけたことで、これまでとは少し違う環境に身を置きながら、自身の暮らしや働き方を見つめ直すようになったといいます。
当時、小嶋さんが思い描いていたのは、特定の場所に定住する暮らしではありませんでした。数か月ごとに居場所を変えながら、新しい環境に触れ、自分の中に起きる変化を確かめていく。「新しい環境が自分に与える刺激」を大切にしながら、これからの暮らしと働き方を模索していました。
海外移住も選択肢の一つとして考え、ネパールやスイスなど、文化や自然環境の異なる地域での生活も検討していました。しかし、家族の事情や2020年以降の社会情勢の変化を受け、計画はいったん立ち止まることになります。
その後、国内で改めて移住先を探し始める中で、沖縄・宮古島にも滞在しました。温暖な気候や開放感のある環境に魅力を感じていた一方で、実際に一定期間滞在してみると、体質や仕事との相性など、想定とは異なる要素も見えてきたといいます。移住先探しは、理想だけでなく、現実の生活と向き合う時間でもありました。
そうした試行錯誤の中で出会ったのが、ワーケーションという仕組みでした。短期間であっても、仕事を続けながら地域の日常に触れられるこの経験が、その後の長期滞在、そして中富良野町との二地域居住へとつながっていきます。
ワーケーションを通じて触れた、富良野での「生活」
北海道・富良野エリアを訪れたのは、当初から移住を目的としたものではありませんでした。別の用事で足を運んだことがきっかけでしたが、その際に活用したのがワーケーション制度です。
制度を利用した滞在は約2週間でしたが、その後も形を変えながら滞在を延ばし、夏から秋にかけておよそ4か月半、富良野エリアで暮らすことになります。この間、ホテルやキャンプサイト、バンガロー、温泉宿、小規模な民泊など、さまざまな滞在先を利用し、数日から1週間程度ずつ場所を変えながら生活しました。
滞在中に大切にしていたのは、特別な体験を重ねることではなく、地域の日常に身を置くことでした。そうした日々を通じて、観光では見えてこない地域のリズムや暮らし方に触れていったといいます。
ワーケーションは短期間の制度利用ではありましたが、その後の長期滞在へとつながり、移住や二地域居住を考える上での現実的な判断材料になりました。

「中富良野町」で感じた、ちょうどいい不便さと人との出会い
富良野エリアでの滞在を重ねる中で、小嶋さんが拠点の一つとして選んだのが中富良野町でした。決め手となったのは、自然環境と生活利便性のバランス、そして「ちょうどいい不便さ」だったといいます。
都市のようにすべてが効率的に整っているわけではありませんが、その分、日の出や日の入りに合わせて一日が進んでいく感覚があります。自然のリズムに沿った暮らしが、心身の調子を整えてくれるように感じられたそうです。
また、住まい探しの過程で出会った不動産業夫妻の方の存在も、印象深い出来事の一つでした。一般的には、早く契約につなげたいと考えられる場面ですが、その夫妻からは「冬を経験せずに決めるのはおすすめしません」という親切な言葉をかけられました。
さらに、判断材料として実際の冬の暮らしを体験できるよう、契約前にもかかわらず住居を一定期間使わせてもらえることになりました。小嶋さんは寝袋と最低限の生活用品だけを持ち込み、約2か月間、厳冬期の中富良野町で生活を体験しました。
無理に決断を促すのではなく、時間をかけて考えることを後押ししてくれたその姿勢に、地域の人の温かさを感じたといいます。こうした経験を通じて、「ここなら続けて暮らせそうだ」という確かな手応えを得て、正式に手続きを進めることを決めました。
完全移住ではなく、二地域居住という現実的な暮らし方
現在、小嶋さんは東京と中富良野町を行き来する二地域居住の暮らしを続けています。時期によって滞在の割合は変わりますが、自分に合ったバランスを見つけているといいます。
仕事面では、東京での業務を軸にしつつ、北海道での仕事も少しずつ増えています。小嶋さんは、二地域居住による仕事面での変化を「知的体力が高まった感覚」と表現します。効率やスピードが求められる東京と、時間の流れがゆるやかな中富良野町という対照的な環境を行き来することで、思考の振り幅が広がりました。目の前の業務に追われるのではなく、全体を俯瞰して考えられるようになったことで、東京での仕事も以前より客観的に見られるようになりました。
生活面でも変化がありました。中富良野町では家庭菜園に取り組み、旬の野菜を育てる日々を送っています。土に触れ、自然のペースに身を委ねる時間は、都市での生活ではなかなか得られなかったものだと感じているそうです。また、早寝早起きが自然と身につき、日の光とともに一日が始まる生活リズムも定着しました。こうした変化が、心身のコンディションにも良い影響を与えていると話します。

地域と関わりながら、これからの役割を考える
現在は会社を経営し、ダイバーシティ経営戦略のコンサルテーションや女性リーダー育成を通じて、企業を支援しています。そうした専門性を生かしながら、地域と関わる仕事にも少しずつ携わるようになりました。外から来た立場だからこそ見えてくることもあり、小さなことからでも地域に役立つ関わり方を続けていきたいと考えているそうです。
大きな変化を一気に起こすのではなく、「できることを、できる形で」。中富良野町での暮らしを続けながら、少しずつ関係性を深めていく姿勢が印象的です。
移住や二地域居住を考えている人へ
「今の生活や働き方に大きな不満があるわけではないけれど、どこか物足りなさを感じている。そんな人にこそ、一度北海道でワーケーションを体験してほしいと思います」
小嶋さんはそう語ります。言葉にしにくいモヤモヤや迷いに対して、環境を変えてみることで見えてくるものがある。そのきっかけとして、ワーケーションは有効な手段だと感じているそうです。
「北海道でのワーケーションは、思いがけない気づきや出会いをもたらしてくれます。それは、人生の中で受け取るサプライズの贈り物かもしれません」